インタビュー | Yuri Iwamoto

インタビュー | Yuri Iwamoto

「溶けたガラスの意思をなるべくそのままに留め、素材と対話しながらかたちを作ることを大切にしています。」


現在富山県でガラス作品の制作をされているYuri Iwamotoさん。
今にも動き出しそうな生き物感、そしてどこか愛嬌があってそばに置きたくなる彼女の作品が生まれる背景をちらりと覗いてみましょう。


彼女の作品はこちら


ガラスで作品作りを始めたきっかけを教えてください。

もともとテキスタイルデザインをやりたくて、美大に入ったんですけど、勉強するうちに私がテキスタイルでやりたかったことは色合わせだったり、模様を描いたり、グラフィック的なことであることに気づきました。

染料による色の関係以外に何かないかなと思っていたときに、Oiva Toikkaのガラス作品を見て、得体の知れない柔らかい色同士が合わさることで生まれる、温かみや柔らかい空気に魅せられました。

あと、ガラス自体が自立するところや、光を留める「透明」という色も他の素材にはない色だったので、そこに惹かれてガラスを選んでからずっと続けています。

 

ガラスの素材としての魅力はなんですか?

いっぱいあります。笑
熱くて柔らかいガラスに触って形を作っているのですが、冷えるとガラスの動きが止まります。それが時間や行為の履歴をとどめるという、不思議な営みに感じられること。

また、透明という色が想像させるものが、プランクトンやクラゲ、宇宙人とか想像上の生き物だったりとか、得体の知れない生き物のような神秘があることや、ガラスの中に不可侵な世界が広がっていること。無垢のガラスなんか特にそうなんですけど、ちょっと神聖な気持ちになります。

あとは光で形ができているところ。いろんな形の隅々に光が溜まることで、その形が浮かび上がって見えるような感覚がします。

ガラスの魅力はたくさんあるんですけど、最近一番思うことは、そういう不思議な素材が部屋にポンと置かれることで、そこから空間が揺れるというか、ガラスには空気を揺らす力があるなと思って。そのエネルギーに一番魅せられています。

 

Melon flavorを暗い部屋に置いた時に、光って得体の知れない存在感がありました。

あれ光りますよね。私たちの生活は工業製品に包まれているので、そういう、うにうにとしたガラスがポンと置かれることでふわ〜と空気が変わる、そういう感じ。

 


この緑色のガラス作品がMelon flavor

作る時に大切にしていることは?

今、目の前にある形に向き合うことです。
私は作りたい形のスケッチをかなり描いて、段取りを組んで仕事していくタイプなんですけど、ガラスという素材がトリッキーすぎて、思い通りにはなりません。いろんな複雑な要因が絡んで、思ったより動く、動かない、溶けちゃう、全然溶けてくれないなど「全然こんなはずじゃなかった」という予想だにしない形がドーンと突然出てきたりして。それが出てくると、えーどうしようって、とても焦るんです。笑

それを無理に直そうとすれば、直すこともできるんですけど「こうしたかった」とか「こうするはずだった」という気持ちは一旦置いといて、まず目の前の形を大切にしてます。「あ、じゃあこれが綺麗だから今はここでやめておこう」とか「ここだけ引っ張って終わりにしようかな」とか「こういうパーツを組み合わせてみよう」とか考えます。ガラスは一瞬しかその形を保てないので、その判断も4~5秒の間に繰り広げられるんですよ。

 

すごい、一瞬一瞬見逃せないですね。

そうなんですよね、結構息止めている時間が長いです。笑
無意識に、針に糸を通す時のように息を止めちゃうんです。

 

作品はおおらかな印象があるんですけど、作品作りのプロセスは緊張感で満ちている感じなんですね。

周りから見たら、全然そんな風に見えないと思うんですけどね。笑 自分がすごく高いところから落下していて、どこに着地しようって考える感じです。もちろんそんな経験は無いんですけど。粘土をいじる時のように、落ち着いてじっくり形を作りたい気持ちもあるんですけどね。

 

フィンランドに交換留学した理由やきっかけを教えてください。

もともと藝大に行くつもりだったんですけど、挫折して武蔵美に入学しまして「武蔵美に来たからにはフィンランドのアアルト大学に行こう!」と思っていたんです。北欧デザインに憧れて美術を始めましたし。
そういう野心もありつつ、ガラスで作品作りをはじめてみて「やっぱりフィンランドガラスは唯一無二だな」と改めて思ったからです。今の私の作品はフィンランドガラスにかなり影響されています。

例えばガラスをビチョっとつけた跡をそのままにして、魅力として見せるところ。他の国のガラスは、というと主語が大きいんですけど、目の前のみにょみにょ動くカオスなものをきちんと、言うこと聞かせるような作品が多いのですが、フィンランドのガラスはOivaを筆頭にTapio WirkkalaやKaj Frankもガラスを素材のままでいることを許しているというか、、、懐の広さを感じます。

あと、きっとフィンランドのデザイナーは氷の形をすごくよく見ているから、水とか氷とか自然の形をうまくガラスとシンクロさせている部分があります。不思議なことに隣のスウェーデンに行くとあまりそういうところがなくて。フィンランド人のデザイナーだけがそんなことをしているので、その水脈に触れたいなと思い、留学しました。

 

実際に行ってみて、その自然から影響されたものづくりの精神を実感できたことはありますか?

行ってみたら、そういうものづくりはちょっと昔の話になってしまっていました。アアルト大学はデザインの学校で、よく整頓された造形を目指す方向ではあるんですけど、どこかにナマの素材の良さを生かすメンタリティは残っているなと思いました。

あとは各地の博物館やセカンドハンドショップで、図録に載っていないような作品を見ることができたり、そのメンタリティを継承している人に出会えたことはよかったです。弱まりつつあれど、残っている感じでした。

 

フィンランドのデザイナー以外に、影響を受けた作家、デザイナーさんはいますか?

Oivaと同じくらい衝撃を受けたのは、ベネチアで制作をされている三嶋りつ惠さんというガラス作家さん。あとは、めちゃめちゃ影響を受けているわけでは無いんですが、Erik Hoglund。彼もプロダクトと工芸のギリギリなところにいるのが良いなと。

あとは私より先にやりたいことやられたって、勝手に悔しいと思ったのがJochen Holzですね。笑
彼はHot workではなく、ガラス管を使うBurner workなんですけど、真っ直ぐじゃなくてシワシワのガラスがかっこいいというアイディアは、先にやられたぁと思いました。

 

ちょっと彼をライバル視していたんですか?

そうですね、自分はまだ何も作れないのにうわぁ〜ってなりました。二十歳くらいの時に生意気ながら思っていた記憶があります。

 

ガラスの制作に使う道具たち Photo credit Yuri Iwamoto

インスピレーションの源を教えてください。

ここ数年ずっと見ているのは古代文明の形で、一番好きなのはクレタ島のミノア文明です。壺からお花が咲いていたりとか、二つの形が一つに融合してる形とか、ラブリーで不思議で。呪具や祭具として作られたものの神聖な形を求めて、東京国立博物館に通ったりしました。
そういったシーンで使われたものはシンメトリーの形が多いのですが、そこに宿る強さや、生きたい、子供を授かりたいとか、根源的な人の願いや強い気持ちがストレートに表現されているところにとても影響されています。

あとは、大学時代に茶道部に入っていたので、茶碗とか歪な美はとても好きです。ものに想像の余地を乗せることは、そこからいただいたアイディアだと思います。一見使いにくいものとか、なんだこれ? という形だからこそ、この花が合うんじゃ!という組み合わせの妙もその文化から影響を受けたし、そこから転じて民藝とか見るのがすごく好きです。

自分のお気に入りフォルダを俯瞰してみると、基本的にはムチムチもっちりした形が好きなんだなと思います。

 

ムチムチもっちり。笑

魚の肝とか、豚のレバーとか、不思議な曲線を描くジャガイモとか。可愛いと思ったら調べたりしますね。フグの白子とか、パンパンに何かをたたえている形が好きで、これも古代の形が好きなことに繋がっていくと思うんです。

 

ミノア文明に辿り着いたきっかけは?

一番最初のきっかけは大学時代に受けたギリシア美術史の授業です。背景が青くて女の人がいる有名な壁画があるんですけど、その色使いやちょっとこっちと目が合わない感じが面白いなと思いました。目が合わないとすごく独立した存在に見えるというか、自分と違う神聖な生き物という感じがして、すごく良いなと思いました。

それで留学中に実際にクレタ島に行ったんですよ。冬のヘルシンキの悪天候が辛すぎて、太陽を浴びようと思ってヨーロッパ最南端へ。笑
で、ミノア文明の出土品を集めている博物館に行きまして。もうそこが、パワースポットですね、自分の!

 

博物館に行かないと見れないものがたくさんあったんですか?

美術の教科書に載るような有名な作品は、きっと巡回展示されていると思うんですよ。でも
ちょっとしょうもない壺とか、歴史的な価値が見出されなさそうなものが、さりげなくて可愛いんです。

 

これから作品作りでチャレンジしてみたいことは?

この色や組み合わせをやってみたいとか、造形的に細かいことだったら無限にあるんですけど、もうちょっとちゃんと言うと「作品と、それが置かれた場所の関係」を大切にして制作をしたいです。

例えば氷見のHOUSE HOLDさんでの個展では「氷見という街のゆるさを大切にしているこの建物の、この場所に置くから、このくらいの揺れ感にしよう!」とか「これくらいのイージーさでいこう」といった風に。あとは海が見えるからこの作品はこことか、場所と作品を考えるのがとても楽しくて。氷見の展示では「街とガラス」を自分の中でテーマとしてやったんですけど、それが住居、オフィス、あるいは病院だったり、もっといろんな空間にガラスを置いて、いろんな空間を揺らしたいですね。

 

「空間を揺らしたい」ってDJみたいでかっこいいですね。

フロアを沸かせるみたいな。笑
あと、アーティストインレジデンスや、トリエンナーレみたいにその土地の歴史とか雰囲気を吸収して制作するようなこともしたいですね。コロナが収束したら、すぐにでもしたいです。

 

展示をしたい地域や場所はありますか?

ここのエッセンスを吸いたい!と思う場所はありますね。影響を受けたクレタ島とか。シチリアみたいにいろんな文明が交錯する場所とか。コーカサス地方も興味があります。あとは友達が景徳鎮に移住したんですけど、そこも面白そうだなと。なんか行きたい場所リストみたいになってしまった。笑

 

好きな花と作品の組み合わせがあれば教えてください。

ガラスの塊とグレープフルーツのつぶつぶを並べたり、パイナップルの頭と板状のガラスと並べたり。あとは、むしろガラスがジュエリーになるくらいの感じで、小さいガラスに大きなグレープフルーツを丸ごと乗せたりとか。もはや生けてもいないですね。笑
ガラスと植物のテクスチャの組み合わせ楽しむ感覚です。野菜がかわいいんですよ。ブロッコリーとか特に。最初は緑の塊なんですが、だんだん花開いて黄色くなっていったりドラマチックで。

ラディッシュも生けてから食べたりしますね。ガラスの二股のところに一つラディッシュを乗せてみると、不思議なバランスでなんとも言えない愛しさがあります。ラディッシュの誕生日みたいな。今日は特別な日だからちょっとおしゃれしたよ〜!みたい感じ。

 

作品を使う人にメッセージがあれば、お願いします!

最初に言いたいことは使いづらくてごめんなさい、です。笑
造形メインの花器、オブジェを作る理由は、挑戦してほしいという思いがあります。私自身が挑戦することが好きなので。例えば拾ってきたガラクタを花器にさしてみて、そこで奇跡のバランスが生まれることを楽しんだり。もちろん大失敗もあります。持ち主に能動的に作品に関わってほしくて、私の作品全般がああいう形になっていきます。

基本的には花入を作っているけど、花を入れなくても良いです。「いつの間にかいつも一緒にいるものになってくれたら嬉しいな」と一番に思っています。近所に生えているサボテンとか、なんかいつも一緒にいるな〜くらいの感覚が良いなと。そういうふうに、持ち主を見守れる作品になれたらいいな。お守りを作るような気持ちで作品を作ってます。

ガラスは炎をくぐって生まれてきて、それだけでエネルギーの塊みたいなものなので、ガラスが家にあることで、その人を元気にできたら良いなと思っています。

 


店主のつぶやき

作品作りに対する考え方はもちろん、作る時の感覚を共有させてくれるも例えの表現や、「ガラスで空間を揺らす」など彼女の言葉の選び方も面白く魅力的でした。果物や野菜を主役にもはやガラスをアクセサリー感覚で楽しむなど、こんな自由に作品と関わるのこともできるんだという気づきがあり、わたしも色々と組み合わせて楽しんでみたいなと思いました。


Studio and profile photo credit 2021, Yuri Iwamoto

YURI IWAMOTO
ガラス作家

武蔵野美術大学卒。同大学在学中に、フィンランド、アアルト大学大学院へ交換留学。富山ガラス造形研究所でガラスの技術的な分野を学び、現在は富山県を拠点にhot workという技法で花器や彫刻作品など幅広く制作。

彼女の作品はこちら

Website yuriiwamoto.tumblr.com

Instagram @gan_gannmo