スタジオ訪問 | 田川舞

スタジオ訪問 | 田川舞

「土のなりたい方向に寄り添う感覚を大切にしています。」

日常使いできる陶芸作品を制作されている田川舞さん。
栃木県小山市にある彼女の制作場所にお話をお伺いしました。土の緋色の変化が美しい器、一度見たら忘れない不思議な佇まいの花器が生まれる背景をちらりと覗いてみましょう。

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陶芸を始めたきっかけを教えてください。

もともと金属のアクセサリーを作るのに憧れていて、金属を学べる学校に行こうと思って美術大学を選択したんです。
通ってた美術大学で大学1年生の時に金属、ガラス、陶芸一通り学んだのですが、その時に金属に全然ハマらなくて。笑 
それで陶芸の方が自分の作りたい形をすぐ思い立ったら作れることができて、やりやすいなと感じて、陶芸を専攻したんですよ。動機としては結構単純で、人に自慢できるようなものではないんですけど。笑 自分の好きな形をすぐ作れることが、すごく心地よかったんです。


金属は自分の考える形を表現しにくいと感じられたんですか?

そうですね。最初に型を作って流し込んでダメだったらまた最初から作り直しとか、あと金属の塊を削って形を出していく作業とか削ったら元に戻せないじゃないですか。それで失敗しちゃうことがあり、ちょっとやきもきしちゃったんです。 

 

 

作る時に大切にしていることは?

例えば器だったら、自分のやりたいシルエットを優先して、合わせていく。花器は作っていてこうしたらどうなるかなって、自分の反応を大切にして作っていくことを意識してます。
花器は最初に自分でデザインをしてもその通りに作れることがほとんどなくて。作っていくうちにこっちの方がいいなって思ったら、そのままにしてしまいます。無理矢理スケッチ通りの形にしようとすると、どうしてもわざとらしくなってしまうと思っています。学生の頃にカリキュラムで塑像を作ったことがあるんですけど、こういうのを作りますっていうスケッチを提出して、その通りに作ってたらすごい違和感があって。本当はこういうのじゃないのに...みたいな。そこから、自分の感覚を大切にしようって意識はしてます。

 



技法や素材に対するこだわりを教えてください。

土は信楽の土を使っています。母が信楽焼の作家さんが好きで、実家にあるマグカップはほとんど信楽のものなんです。自分の身近にあったので、なんか信楽いいなって子供ながらに思っていたからかもしれません。
信楽の土って、色合いが緋色に変わりやすくてその色のグラデーションがすごい好きなんです。窯から出してみないと分からない感じ、その特性を生かした焼き方をしたいというのがあります。

 

土はクッキーのような美味しそうな色、この色を緋色と呼んでいます。


信楽以外の土では、このような色合いにならないのですか?

ならないですね。私がまだ知らないだけかもしれませんが。すごい作りやすい土なのでずっとこの土を学生の頃から使っています。

 

手捻りで花器を作っている様子

 

釉薬は、素地が接する面が緋色が特に強く発色する土と反応しやすい釉薬をこだわって使っています。釉薬をかけるときも緋色がどういう風に出るかな、と意識しています。
焼き方も一番綺麗に緋色が発色すると思って、電気窯で焼いています。一回ガス窯で焼いたことがあるんですけど、色が飛んじゃってあまり綺麗じゃなかったことがあるので。

 


形へのこだわりを教えてください。

器は縁をすごく薄く作っていて、縁が薄いだけで盛られた料理がきれいに見えるなと思っています。縁が薄いと繊細でちょっと扱いに気をつけなきゃいけないなって、思われがちなんですけど、そう思われることで大切にしてもらえるなら良いかなと。

 

凛とした縁が美しい器たち!


花器はろくろで作ったりしないんですか?

しないですね。たまにちょっと作ってみようかなって気分になった時は電動ろくろで花瓶を作ったりもするんですけど、基本的には手びねりです。手の跡がつけやすいので、無機質にならないところが好きです。あと、私の感覚みたいなのが直接その花器に落とし込めるので、こういう人が作ってるんだって、わかりやすくていいかなと。

 

最近は制作中にお笑いのラジオを聴くことが好きだそう。


作る時に楽しい、嬉しい瞬間は?

器は焼成前と、焼成後にあって。焼成前は、例えばマグカップとか取手をつけて初めてシルエットが完成って時に、すごく良くできたなって思えるときは素直に嬉しいですね。焼成後、釜を開けた瞬間にやっと出会えたという瞬間もすごい好きです。
花器だと、いつもスリット(表面の削り跡)を入れてるんですけど、スリット入れてる瞬間は正直あまり楽しくはないんですよね。笑 ちょっと修行感覚で。でも最後の最後に完成されて達成感というか、よく頑張ったなとか、ありがとうという気持ちがありますね。そういう瞬間が嬉しいです。

 

毛並みのような独特な模様はひとつひとつ手で彫られている。気が遠くなる作業。
スリットを入れるための道具は大学時代から長く使われているもの。


作品作りで参考にしていることはありますか?

花器はないですね。笑 こういうふうにしたいと思ったら作っちゃいます。
器はルーシー・リーさんが好きで、学生の頃図書館で眺めたりしていました。シルエットが全部美しくて、すごいなと思ったことを覚えています。だからといって完全にルーシー・リーさんになることは出来ないので自分の中で解釈して抽出する作業をしています。

 

バジルの香りが好きで、近くで香りを嗅げるよう、制作場所で育てているらしい。


これからチャレンジしてみたいことは?

いろんな焼成方法を試してみたいなと思っています。今は釉薬をかけて焼く方法をしているのでけど、釉薬をかけずに素地のまま、炭化焼成という籾殻や炭を入れた焼き方をしてみたいなと考えています。

 


最後に使う人にメッセージあればお願いします。

私の器を使ってくれることで少しでも日常が豊かになってくれればなと思います。

 

彼女の猫たちのご飯の器、猫用のカリカリが美味しく見える...!

店主のつぶやき

土が積み上がり、うねうねと形になっていく様子はまるで成長する生き物のようで見入ってしまいました。当店では現在花器のみの取り扱いですが、食器も魅力が詰まっているので、彼女のインスタグラムでぜひご覧ください!想いが詰まった器を日常的に使っている猫たちがうらやましいです。


Profile photo by Mai Tagawa

田川舞

多摩美術大学工芸学科陶芸専攻卒業。現在は栃木県小山市を拠点に、土の緋色の発色を生かした器や花器などを制作。

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Website tagawamai.localinfo.jp
Instagram @tagawa_mai