「描かれたものが生き生きと映るように、手の触感や目に見えないものも大切にしながら作品を作っています。」
絵画、陶芸、インスタレーションなどの制作、アートユニットとしての活動など幅広く表現をされている時山桜さん。
東京造形大学にある彼女のアトリエでお話をお伺いしました。肩の力を抜いたユーモアを感じる、ユニークな作品が生まれる背景をちらりと覗いてみましょう。
陶芸を始めたきっかけを教えてください。
きっかけはいくつかあるんですけど、興味を持ち始めたのは、私が大学院生のときです。立体作品を作ろうと思って、その素材集めで探してた時に陶芸という選択肢が頭に浮かんで、やってみようかなって思ったのが1つです。
あと、その頃陶芸が流行り始めていたのか、アーティストの間で陶芸作ってる人が割と多くて。SHOKKIさんや谷本真理さんの作品を見て、陶芸の魅力に感動して私もやってみたいなと思ったのが、2つ目のきっかけです。
3つ目のきっかけは、銀座の繭山龍泉堂という骨董品や民芸の陶芸をコレクションしているギャラリーに行ったことです。大学の時に教わっていた教授、高橋淑人先生の親戚のギャラリーで、先生に勧められて行きました。
中国の宋時代の作品とか、何千年も前の陶芸を見たりして、素材の強さや、形も美しさ、色の発色の綺麗さがすごいな、と思いまして。
で、陶芸をちゃんとやってみようとだんだん意識し始めたという経緯があります。
色々なきっかけがあったけど、中国の古美術に感動した気持ちに後押しされたんですね。
そうですね、そこまでは作れないけど、やっぱり人が作った形とかに結構興味があって。なんだろう、時代によっても形とかその使われる用途が違ったり、釉薬とかで時代がわかるとか、その時代の人々が作った陶芸の良さを感じて。
陶器という素材だけではなくて、人が作った個性みたいなものも陶芸に出ていることも魅力だなと、その時思いました。
自分の作品でも、自分で表現したいものが陶芸で反映できるかな、という可能性をちょっと感じました。
陶芸を始めてみて、何か発見はありましたか?
反応がすぐ帰ってくる感じというか、粘土を触ったら自分の手の形になるしでも窯に入れて出したときに全然違う釉薬の色になってたとか、自分の思い通りにならないとこも含めて変な生き物みたいな存在だなっていう風に感じました。
もともと生き物とかが好きっていうこともあるんですけど、私はその陶芸の特徴と相性が良いなと思いました。
壁に貼られた絵やスケッチ、どれもかわいい。
絵画を制作しているときも、思い通りにならないことや意外性があったりしますか?
絵画作品を作る時も偶然性の要素とかを大事にして、自分の筆跡を残さないような作り方をしています。
線を引っ掻いたりして絵を描いたりドローイングをしているんですけど、ゆるっとした絵の具を使って流動性を保つような水とか油の流れに任せて、その下地を作ったり色を作ったりとかで、それを見て自分がまた線を描くみたいな、絵画とのやり取りがあります。自分がコントロールできないところも、ちょっと入れたい気持ちがあるので筆でランダムで色を置いたりしてますね。
絵画と陶芸、制作時の意識の違いはありますか?
分けては考えていなくて、絵画の延長線上で陶芸をやってるぐらいの繋がりが自分の中ではあります。
陶芸をやる前はモデリングペーストとか、木や紙粘土とかを使ってちょっと立体作品を作っていました。紙でもドローイングをするんですけど、それの立体版みたいな位置づけには自分の中で待っていて。
ドローイングは自分と素材とのやり取りと私は思っています。
例えば、ここに木を置いて、ここにピンクを置いたら、じゃあここは水色だなみたいな、みたいになんとなく素材に対しての自分の反応みたいなのを探るのがドローイング。
素材が変わって陶芸でも同じで、この形にはこの色だ、というのがあって。
頭を分けてこれは陶芸これは絵画でこうそれぞれやり方とか意識が違ったりというのはあんまりないですかね 。
作品作りで大切にしていることは何ですか?
陶芸に限らず作品作り全般で言うと、自分が楽しいと感じることを一番大切にしています。
陶芸って商品という要素もあるので、同じ形を量産するという考えもあると思うんですけど、私は一個一個違う形に作りたくて。
ろくろで作るときに、手の癖を生かすというか、偶然出来ちゃった形を生かした作品を作りたいなと。なんとなくその方が作品も自然体な雰囲気が出るかなと思って。無理やり綺麗にしようとかそういうのはあまり考えないように、できちゃった形を出そうという意識で作っています。
陶芸作品を作っていて楽しい、または喜びを感じる瞬間は?
作る前に形のかわいさとかに触れて、テンションを上げて陶芸を作ることが楽しいです。食器の形をドローイングしたり、ネットで他の作家さんの陶芸作品を見たり。キントーやiittalaとか、食器メーカーのホームページを見て、この形かわいいな、と。民芸の図鑑も見たりしています。
絵付けするモチーフのドローイング。迷わずタコから書き始めました。
作っている最中より、作る前の気持ちの盛り上げが大切ということですね?
結構大事ですね。気分を上げて作らないと、失敗することが多いことに最近気づいて。気持ちを作らないとダメかなと思いました。笑
陶芸の気分じゃないのにろくろに触ると全部失敗したりして、その日は一個もできないことが結構あったので、これ気持ちを作らないとダメなのかな思って。自分が楽しむ目的で形や民芸品について調べたり、陶芸にまつわることに触れてから実践すると、形もいいものが出来るし自分もハッピーですね。
マウスパッドにも生き物のイラストが..!
好きな陶芸作品の産地はありますか?
繭山龍泉堂によく行っていたので、中国の宋時代の陶芸は私はすごい好きです。あと日本民芸館とかにたまに行くんですけど、そこで近代の食器を見るのも好きです。北欧の陶芸も好きなんですけど、繊細な感じがすごく東洋美術はいいなと思ってるのでそこは結構影響を受けているかもしれません。
ピンポイントで好きな国や時代はなくて、もう純粋に境目なく好きって思えるものがありますね。
好きなものの幅が広いのは楽しそうですね。
いろんなものを好きになってしまいますね。笑 中国のすごい昔のものとかも、これかわいいみたいな。この時代に作った人はどういう気持ちで作ったんだろうっていう、なんでここに足がある、なんでこんなちっちゃい小物入れを作ったんだろう、みたいな。ものが作られた背景も好きで、一人で楽しんでいますね。
メーカーの食器、民藝、中国古美術と幅広く影響を受けられてますが、その他にも作品のインスピレーションとなることはありますか?
生き物と触れ合って、感じとったことをきっかけに作ることがよくあります。蝶々と触れ合って、じゃあ蝶々を描いてみようとか。生き物とコミュニケーションを取ろうとすることが私は好きなんです。猫とかは取りやすいです。虫とかはちょっとよくわからないけど、関わろうとします。動きや仕草を観察してこうしたいのかな、と察してみます。ひっくり返ってるカナブンを助けてあげたりとか。笑 手すりにいるカマキリとか、ここ危ないよって目で訴えてみるとか。
鉛筆の線は焼成で消えることを知る前は、下書きなし一発で描いていたそう、すごい。
あと、音楽を聴くことが好きなので、好きな音楽の歌詞を書いちゃったりしたりします。その曲を聴いてる時の気分で釉薬の色を決めたりしています。
スピッツが好きで、その歌詞を書いたりとか。あと、シャムキャッツというバンドの曲で中国語の歌詞があって、それを書いたりとか。なんとなくその時に聞いて曲が陶芸に反映されたりしますね。
すごいダイレクトですね。
その時感じたことが、そのまま出ちゃってるかもしれないです。
ユニット「冠婚葬祭」について、活動内容を教えてください。
これはアートユニットなんですけど、今井しほかさんという大学の同級生とをずっとやっています。一緒にパフォーマンスをしたり、展示をしたり、ものを売ったり、なんか変なことをするためアートユニットというか、普通に仲がいいだけなんですけど。笑
友達と遊んでる感覚ですか?
そうですね。笑 本当に小学生みたいな感じで、今日は石に川に投げて遊ぶみたいな。大学1年生の時からユニット組んで、もう5年が経ちます。10時間ぐらい音を出し続けるスパルタ的なパフォーマンスをしたり。
拷問みたいですね。笑
あの時は若かったなみたいな笑
限界に挑戦するというか、なんかしら音を出し続けるパフォーマンスをちょっとしてみたりとか。ちょっと枠から外れるみたいな、素の自分じゃない、ちょっとはじけた自分という意識でやっているのかもしれないです。
最近はbye-bye ショップっていうネットショップを二人でやっていて、家にある変なものを売るというおとなしめな活動もしています。そこで私は陶芸も売っています。
完成~!タコの生贄の儀式に見えます。
なぜ「冠婚葬祭」というユニット名にしたんですか?
四文字熟語がいいかもしれないって、じゃあ冠婚葬祭かなって。
そこでお互い合意できる感性がすごいですね。
感性の重なりが独特というか、みんなになんでって言われますね。笑
売買ショップは売り買いの売買とバイバイを掛け合わせて、2つの意味を持ってます。韻を踏むっていうか、言葉遊びが好きなんです。
使う人へのメッセージがあれば、お願いします。
買ってくれた人には自由に使ってほしいというか、本当にお任せしたいと思っています。知り合いの方が買ってくれることが多いんですけど、コップにお花を入れてる人とかもいるし、お皿を買ってくれた人もアクセサリーを置いたり、自由に使ってくれてる人が多いので、そういう発想で。
買ってもらったら多分自分のお家で使うと思うんですけど、家の中で居心地のよい場所、馴染む場所にあったら良いなって思っています。旅立ったら、自分からは巣立っていく子供のようにのびのびとやっててほしいので。
店主のつぶやき
軽やかに表現方法を行き来したり、ボーダレスに好きなものを見つける姿勢が彼女のかわいい、でも一筋縄にいかない不思議な雰囲気のある作品が生まれる要素なのかなと思いました。ぜひあなたなりの解釈で作品をお楽しみください!
Profile photo by Sakura Tokiyama
時山桜
アーティスト
東京造形大学卒業。ほぼ独学で陶芸を始め、インターネットでろくろの使い方や手捻りの技法などを検索して練習する。ハンドメイドのセラミックレーベルSHOKKIでのインターンも経験。現在は大学内の助手が使える制作スペースを拠点に、陶芸や絵画作品を制作。
Website sakuratokiyama.tumblr.com
Instagram @sakura_tokiyama