インタビュー | 安藤里実

インタビュー | 安藤里実

「自分の中で地球上の全ての生物は水の器なんじゃないかなと思っています。」

現在愛知県でガラス作品の制作をされている安藤里実さん。刻々と変化しているような不思議な印象を与え、ずっと眺めていたくなる彼女の作品が生まれる背景をちらりと覗いてみましょう。

彼女の作品はこちら


ガラスで作品作りを始めるきっかけとなったことを教えてください。

転職した先でのガラス作品との出会いですかね。
ちょっと長い話になるのですが、小さな頃から、工作や美術や体を動かすことが大好きでした。しかし家が厳しく、そういう美術という道へ行きたいと言える環境ではなく、諦めて普通の四年制の大学に通いました。

その後、銀行に就職し4年目が終わろうとした頃悶々とした気持ちになったんです。自分がここで将来働いてるビジョンがみえないし、このままじゃ人生すごくつまらないまま終えてしまうんじゃないかって。もともとあまり結婚願望もなかったですし。笑

それまで安定した生活を送りながら、休みに好きなことをしたり、好きな場所に行ったりしても、その時は楽しくても満たされず、何故か虚しさだけがそこに残りました。人生のうちで仕事をしている時間が一番長いですし、仕事をする時間をもっと価値のある時間にしたいという願望が強まってきたんです。

そんなことを思っていた最中、偶然知り合いが私の好きなデザイナーが所属していたアパレルブランドで働いていて、話を聞いている内に興味を持ち、転職しました。

そのブランドの個性的な帽子と、ガラス作家三嶋りつ惠さんのガラスのオブジェがコラボレーションし、展示されている風景をみて、自分の抱いていたガラスに対する概念が180度変わったんです。今までガラスに対して「冷たい・凛としている・シンメトリー・静止している」そんな印象を持っていました。しかし、三嶋りつ惠さんによるガラスのオブジェは「温かい・柔らかい・アシンメトリー・躍動している」まるで生きているかのようなエネルギーに満ちていました。

また、お互い良い意味で帽子とガラスが主張しあっているのに、調和がとれてたんです。それってすごく狭いところを攻めていると思ったんです!そりゃ、形が整っているものを並べれば、なんとなく調和が取れているようにみえます。ただ、今まで見てきたものは、なんとなくのものが多い気がしていたので。(本当にいいものもいっぱいあります、すみません。)

「この2つで攻めるの?でも調和とれちゃうんだ!」それはガラスだから可能にしている部分が結構大きいんじゃないかな?とただ漠然と思ったり。それらに衝撃を受け、とても心が躍り、ガラスという素材を触ってみたいと思ったんです。

吹きガラス(Hot work)の技法で作品を作る面白さや難しさをぜひ教えてください。

吹きガラスはどんなに上手い人でも、思い通りにコントロールすることは難しいと言われています。逆に私は必要最低限な技術と知識を身につけた上、コントロールできないことを潔く認め、ガラスが動こうとしている流れと対話するイメージで制作しています。それが友達と遊んでいる感覚でとても面白いですね。

何からインスピレーションを受けますか?

ありきたりかもしれませんが、「水」です。自分の中で地球上の全ての生物は「水の器」なんじゃないかなと思っています。色んな力によって押さえつけられ今の形状になっているのだろうけど、本来もっと宇宙空間にいるような浮遊感にみちたものが本来の姿なんじゃないかな?と。

影響を受けたガラス作家、デザイナー、アーティスト等がいましたら、教えてください。

ガラス作家だと三嶋りつ惠さん、 Tapio Wirkkala。
デザイナーでは宮前義之さん。

作るときに大切にしていることはなんですか?

自分の意思を押し付けなすぎない程よいバランスの意識ですかね。ガラスは作業中直接手で触れることができず、間接的作業となりますが、道具で触り過ぎないよう(ガラスを作為的なかたちにしないよう)に気をつけています。

ガラスを綺麗なかたちに整えようとすると、どうしても道具を押し付けたりする工程が発生します。それってガラスがのびのび動こうという意思を殺している気がして、ガラスが窮屈そうにみえます。なので、私はなるべく道具で触れず、溶けて動くガラスをみてどんなかたちになりたいのか、意向を汲み取るような意識で制作しています。

これからは主に無色透明のガラスを使って制作されると以前お伺いしましたが、その経緯や気持ちをぜひお聞かせください。

ガラスの良さを引き出すのは無色透明だと思う気持ちが強いからです。無色透明はダイレクトにガラスの造形や影の出方、屈折する様子を楽しませてくれます。色ガラスも好きですが、色を用いると視覚的に色に意識が持っていかれたり、意味を考えてしまう部分が無意識に発生してしまい、制約や制限ができるため、あまり今のところは意欲的に使おうと思っていません。

去年は自分の知識としてのレパートリーの引き出しをつくるために色のある作品を多くつくっていました。きちんとコンセプトがあるものに関しては使おうとは思っていますが...。とりあえず、私にとってガラスは無色透明が一番です!

私生活でご自身の作品を使われていますか?もし思い入れのある、あるいはお気に入りの作品、使い方があればぜひ教えてください。

つくったら全ての作品を、自分で使ったり生活空間に置いたりしています。どれもお気に入りで、順番はつけ難いですね。笑 私が花器と言おうが、ご自身が使いたいように使ってもらえるのが一番いいと思っています。こんな使い方もできるんだと、新たな発見をして楽しんで頂きたいです。

これからチャレンジしてみたいことは何ですか?

この前の個展で久々に大きめのものをつくって味をしめたので(笑)、次の個展はそれをさらに発展させて挑戦的に、より良いものをつくりたいですね。あと、これからはジュエリーにもう少し力をいれていきたいと思っています。

最後に使う人に伝えたいことがありましたら、お願いします!

置く環境、見る角度、時間帯によってさまざまに変化する私の作品をみて、その時々で新たな発見があったり、楽しんだり、癒しとなれば幸いです。


店主のつぶやき

安藤さんのガラス作品はピュアという言葉を連想させ、ハッとさせられる美しさがあります。彼女の作品を見て、そしてインタビュー中の言葉から、子供のころに強く感じた水に対する好奇心を思い出すきっかけになりました。お風呂のお湯、公園の池、近場の川、あらゆる水面を飽きずに眺めていたな〜と。彼女の作品はずっと眺めていたくなる変化する面白さも魅力なので、ぜひ手に取ってお楽しみいただきたいです!


Studio and profile photo credit 2022, Satomi Ando

安藤里実

愛知県生まれ。基礎的技術を富山ガラス造形研究所で学び、その知識を活かし卒業後瀬戸市新世紀工芸館にて独自の造形、表現について独学で探求。現在愛知県瀬戸市にて、吹きガラス(Hot work)によるオブジェや器、バーナーワークによるジュエリー、キルンワークによるオブジェ制作など様々な技法を用い、その時々幅広くつくりたいものを制作している。

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Instagram: @i__ma.__